傀儡の恋

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 ブレアが会っているのはセイランの人間ではなかっただろうか。
 そんなことを考えながらも、ラウは静かにその場に座っていた。
「だからぁ……お前たちの所の人形を貸してくれればいいんだよ」
 胸くそ悪い。
 目の前の相手に対する感想はその一言だ。
 確かに自分達は《一族》によって作られた《人形》かもしれない。しかし、この男が言っているのは自分達のことだけではないのだ。
 この男――いや、ブルーコスモスの構成員にとってはコーディネイターも《人形》なのだろう。
 しかし、彼らもまた自分の意思を持って生きている人間なのだ。
 それを認識しなければいつまで経っても戦争はなくならない。
 いや、それこそが狙いなのか。
 この世の中で一番金になるのは間違いなく兵器だ。中でもMSはその筆頭だろう。
 しかし、平和になればそれらの多くは無用の長物と化す。
 そうなれば、今まで入ってきた利益がストップするのはわかりきっている。
 だから、こう言うバカを煽って平和を壊そうとしているのではないか。
 以前なら、それはどうでもいいことだった。
 だが、今は違う。
 間違いなくそれは、キラがあの戦争でどれだけ傷ついたか――その多くが自分のせいだろうと言うことも理解している――を目の当たりにしたからだろう。
 自分という存在故に彼が苦しむのは、多少良心が痛むがいやではない。だが、自分以外の誰かのせいで傷つくのは不快だとしか言いようがないのだ。
 それがどれだけ勝手な言い分かはわかっている。しかし、あのときも今もその考えを捨てきれないのだから、自分は最初からそう言う人間だったのだろうとラウは考えていた。
「お断りします。上からもあなたの申し出は受け入れられないと言われています」
 ラウが自分の思考に浸っている間にも話は続いていたらしい。
「第一、家の者は全員、それぞれの仕事に就いています。手空きの者はいません」
 ブレアがきっぱりとそう言いきった。
「そんなことないだろう? ちゃちゃっとやってくれればいいだけじゃないか」
 しかし、目の前の開いてもあきらめない。
「人一人さらってくるなんて簡単じゃないか」
 さらにこう続ける。
「お前たちなんて、こんなときのためにいるんだろう? ならば、さっさとカガリをボクの前にに連れてこい」
 それこそ難しいとしか言いようがない。
 一国の代表首長を拉致すれば騒ぎにならないはずがないではないか。
「何と言われようとお断りします。今回、あなたとお目にかかっているのですらイレギュラーですから」
 言外に違う理由でこの町に来たのだとブレアは続ける。
「どうしてもと言われるなら、正規の手続きで交渉してください」
 きっぱりと言い切る彼に、相手の顔が歪む。
「後で覚えていろよ!」
 言葉とともに立ち上がると、足音も荒く出ていく。
「よかったのか?」
 荒々しい音ともに閉められたドアを見つめながらラウはそう問いかけた。
「かまいません。上も今は彼の言葉を無視するでしょう」
 ブレアはそう言い返してくる。
「もっとも、後のことはわかりませんが」
 今はまだ現状を維持すると判断しても、今後は違うと言うことか。確かに、今はかろうじて均衡がとれている状況だと言っていい。それがいつ崩れるかわからないのだ。
「……ただでさえ厄介な存在と出会っているというのに」
 昼間のことを思い出してラウはそう呟く。
「と言うと?」
「私の正体に気づきかけた者がいたと言うだけだよ。とりあえずごまかしておいたがね」
 だが、それもいつまで続くか。
 このまま離れてしまえばそれでいい。だが、もしまた顔を会わせるようなことになればどうなるだろう。
 そして、その相手がレイではなくギルバートならば、と考えてしまう。
「大丈夫でしょう。こちらも手を打ちます」
「そうしてくれるとありがたいね」
 ブレアの言葉にラウはこう言い返した。

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最遊釈厄伝